「法令適合性を二の次」とするワンマン経営

乙第1号証(2022年6月13日・株式会社ATC社員・小木曽氏からの解約申し入れ)のなかで、本題に入る前の「あいさつ」として小木曽氏が自ら切り出した言葉。

「(株式会社ATCの)代表は、レオパレス21やMDIの創業者なんです。」
「私(小木曽氏)もレオパレスでして、MDI、ATCという流れで」「非常にお世話になっておりまして。その流れでATCの方に」。

乙第1号証より

 以下に記すような社会問題において、株式会社レオパレス21の創業者・深山祐助氏の責任が大きく取り沙汰されるなか、このような「あいさつ」には感覚を疑いました。下記に記す「周囲の人間が、深山祐助氏の意向に沿うことばかりに汲々とする結果、」「法令適合性が二の次になってもやむを得ないなどという意識を持ってしまった」という記述をみると、強い懸念を抱きます。この訴訟に至るまでの、借地借家法の趣旨を蹂躙するかのような令和4年6月2日からの強引な立ち退き請求が重なるように思えてならないからです。

深山祐助氏はレオパレス21創業者として従来の不動産販売事業から請負建築事業へとビジネスモデルを転換し、コストダウンと工期短縮のための施工マニュアルを作りました。「入居者にとって家賃は安い方がいいに決まっている。家賃を下げるために、とにかく『建築費のコストダウン』を実施」しました。
その結果、2018年に多くの施工不良が見つかり、レオパレスに暮らす多くの住民が引っ越しを余儀なくされ、それらの物件のオーナーも巻き込んだ大きな社会問題となりました。

2019年5月30日付けの朝日新聞より)「レオパレス、残る疑念」と題した記事をみます。記事は冒頭で「レオパレス21が29日に発表した第三者委員会の最終報告書(外部リンク・「施工不備問題に関する調査報告書 (概要版)」)からは、創業者・深山祐助氏の『ワンマン経営』をきっかけに、業績拡大を優先させた同社の姿勢が浮かぶ。いまだ引っ越し先が見つからない入居者も多く、先行きがつかめない」との記載から始まります。
 記事によると「124ページに及ぶ第三者委の報告書でたびたび登場するのが、創業者で元社長の深山祐助氏だ」とのこと。その報告書には「同氏の意向に沿うことばかりにきゅうきゅうとする結果、『法令適合性が二の次になってもやむを得ない』などという意識を持ってしまったのではないか」と指摘されています。

 また同報告書では「現存する3万9千棟余の共同住宅の所有者、居住者ら」について言及し「財産的損害や精神的苦痛、あるいは不安がいかに深刻なものであるかは想像に難くない。重大な社会問題といっても過言ではない」と断言しています。

深山祐助氏は47億円にのぼる私的流用事件の責任を取りレオパレス21を辞任した直後、「株式会社MDI」を創設し、代表取締役会長を務めています。「東洋経済オンライン」の令和3年8月5日付けの記事(筆者・小野悠史氏)では「レオパレス創業者が設立『MDI』不正融資の手口」と題する記載のなかで、この株式会社MDIについて「レオパレスとうり二つのビジネス」として次のように記しています。
「MDIでは自社で購入した土地に賃貸アパートを建築し、個人投資家に1棟販売を行う「直売事業」(ランドセット)にも進出し、これが同社を急成長させた。」
 しかし、その後レオパレス21の施工不良問題が発覚すると引きづられるように営業悪化に陥ったとのこと。その中で、個人投資家への銀行融資を不正に手助けする詐欺事件が発覚しました。
 2019年9月には、ソフトバンクグループなどが出資する合弁会社に救済措置のように吸収される。その条件として深山祐助会長は退任するかたちになったということです。


現在、深山祐助氏が代表取締役会長を務める「株式会社ATC」は、その僅か1ヶ月後の2019年10月に深山祐助氏自らが創業したものです。小木曽氏が乙第1号証で述べるように、原告・株式会社ATCの社員は深山祐助氏の元でレオパレス21やMDIなどで経験を積んだベテランが少なくない。(株式会社ATCの現在の代表取締役社長・深山忠広氏は祐助氏の甥であり「レオパレス21不良施工問題」発覚当時の副社長。)

「令和の地上げ」ってどういうこと?