東京・新宿、平出恵津子さんの住むお部屋の目の前には、新宿では珍しい大きな柿の木が立っています。
鬱蒼として昭和へタイムスリップした雰囲気です。柿の木には小鳥が羽を休め、柿の実を食べに来ます。その木陰に紛れて狸がいたり、地域のねこも暮らしています。
このアパート、今から2年前2022年5月末に、株式会社ATC・深山祐助社長(現会長)に買い取られました。もちろん大家さんが変わったからといって、住んでいるひとの生活に影響することがないように住人を守る法律があります。
ところが、買い取った3日後に平出さんたち住人は「半年後の11月に建物の取り壊しが決定しました。すぐに引越し先のご相談がしたい」と立退きを要求されてしまい、ピンチに陥ります。
取り壊しの理由を求めていたなかの2022年9月、突然、平出さんに裁判所から「翌年8月の更新拒絶と建物明渡請求」の訴状が届きます。平出さんは「アパートと自分の暮らしを守るため」のたたかいに巻き込まれていきます。
私たちが応援してます
私たち「柿の木訴訟を支える会」は、普通に平穏に暮らしていることが脅かされる世界にしたくないと考えています。ちいさな個人・平出さんを支えることから、私たちの暮らす世界を見つめ、集う人々で考え話し合い、小さなところから私たちの暮らす世界を変えて行きたいと願っています。

法島はるか
初めてスープの会の路上訪問に参加したとき、一番最初に話しかけてくれたのが平出さんだったことを覚えています。
参加者の人たちと自転車で出かけたこと、路上訪問で会う人についてなど、色々なことを教えてくれて、迎え入れてくれたことに、平出さんの暖かさ、優しさを感じました。その後も、初めて参加する人に率先して話しかけている姿をよく見かけて、私にはそれは、初めて参加するということへの緊張や不安を和らげたり、孤独にしない、置いてきぼりにしない、という平出さんの優しさの現れだと感じられました。平出さんの声掛けにホッとした人はいっぱいいると思います。平出さんと話していると、私は穏やかで落ち着いた気持ちになる気がします。その他にも、行動の節々に平出さんの親切を感じることがありました。
柿の木訴訟のことを聞き、改めて、住居が脅かされることは決して珍しいことではないのかもしれない、とまだ見ぬ人たちのことが頭に浮かびました。家に住めなくなるかもしれないというのはとても不安になることだったと思います。そして、実名と顔を出して声を上げるというのもまた、とても勇気のいることだったと思います。自分に起こったことをきっかけとして、そこだけで終わらすのではなく、きっとそういうことで困っている人は他にもいるはず、と、他の人たちのことにも目を転じて行動を始めようとすることは素晴らしいことだと思います。私も、どれだけ役に立てるかわかりませんが、困っている人たちを支えるための少しの力にでもなれたら、それだけでも嬉しいです。何も力になれなくても、応援してることはせめて覚えていてくれたらいいな、と思います。

高橋さわ
自分がそっと大切にしているものが、何か大きなものによって、無配慮に踏みにじられる… 平出さんが、日々の暮らしについてやわらかく
語っていらっしゃるのを聞いた時、この出来事の意味が、自分の中の感覚と結びついた気がしました。
平出さんは、色々なものを見落とさないよう、取りこぼさないよう、大切に大切にしている方だと思います。それはきっと、とても忍耐のいることです。繊細さ、謙虚さ、そして秘めた力強さが両立しているお人柄だと感じています。
そんな平出さんが、大切なものを大切にしようと抗っている、その気持ちに連帯したいと思いました。
私自身、自分にとって大事なものを持ち続けるのが苦しくなる時があり、手放したい衝動に駆られ、踏みとどまり、ゆらゆらと揺れ動いています。平出さんも、きっと色んな葛藤がおありなんじゃないでしょうか。
戸惑い、ゆらゆらしながら、平出さんと共にいます。

山田晋
社会問題として、誰でも地上げで住まいを失うことはあってはいけないと思いを巡らすこと··これは「義」(社会的正義)です
平出さんという
身近にいらっしゃる大切で素敵な方が、大事にしている住まいを失うかもしれない、ということに自分の身に置き換えて心を寄せること··これは「仁」(身近な人への思いやり)です
そして、平出さんみたいな大切で素敵な方が理不尽な立ち退きを迫られることはあってはならない、悪いのは向こうなのに法的措置で脅かして、なんて許せない!ともに最後まで闘う!··これは「侠」(勇気を持って行動すること)です
私が平出さんを応援したい、という気持ちは「仁」と「侠」、つまり任侠なんです
今では、いわゆるカタギじゃない方を指す言葉として使われますが、本来は自分の大切な人にそういう理不尽なことがあっちゃいけない、許せない、ともに闘いたいっていう極めてまっとうな行動原理を指す言葉です
平出さんが、人間的に魅力的で、穏やかで、優しくて、でも芯が強くて大切なものは譲らない、っていうのは平出さんと直接お会いしている方はみんな知っているので、これ以上は私からは長々とは申しません
そして、これも平出さんを知っておられる方なら皆さんご存知かと思いますが、平出さんご本人はご自身の権利を声高に主張されるような方ではありません
芯は強い方だと思いますが、極めて穏やかで普通に暮らしをされている方です
その方が、勇気を振り絞って、今ある普通の生活を続けたい、理不尽なものは理不尽だと、いつまで続くかもしれない大きな不安と闘っています
普通に生活している人が普通に生活することは、声高に主張して勝ち取る特別で崇高なものではないと思います
普通に暮らしておられた方が、それこそ事故や災害に巻き込まれるように、突然に住まいを極めて理不尽に立ち退かされそうになっている、ということに一人でも多くの方が気がついて思いを寄せてくれることを真剣に願っています
また、我々も平出さんみたいな理不尽な立ち退きを迫られている人がおそらくいらっしゃることに思いを馳せ、共に闘いたいと思います
冒頭申し上げた「義」の入口から、平出さん個人とその魅力を知って頂いて、ともに思い寄り添って「任侠」の世界に踏み出して下さることをお願い申し上げます

後藤浩二
神谷法律事務所弁護士の島田さまより、裁判期日の場でお家賃の振り込み確認や建物の修繕の問い合わせは、
今後小木曽さまへメールを送るようにとのご指示がありましたので、一昨日、下記のメールを小木曽さまへお送りいたしました。
ところが、昨日、私の代理人弁護士・今村先生の元に突然「上申書」が届けられまして、それによりますと小木曽さまではなく今後は三浦さまへ直接お問い合わせるようにとのご指示に変わっていました。
三浦さまは経緯をご存知かどうかわからないので、こういうことを申し上げるのは失礼かと思い恐縮なのですが、正直に申しまして、また「たらい回し」にされるのかと、不安を感じています。
以前にコンセント基盤の破損について修繕のお願いをした際にも、担当窓口について島田弁護士か小木曽さまかと混乱し、業者が私の家に来たその場ですら修繕の費用負担を誰が負担するのかも分からずもめることとなり、随分と怖い思いをいたしました。業者の方は「言われてきただけだから」と言って無理やりに工事を始めようとするので、「担当の方に確認を取って下さい」と必死でお願いしても、小木曽さまや御社のタキタさまなどのお名前が上がりますが連絡をとってもらえませんでした。一人暮らしの女性としてはもう怖いので、同席して下さったスープの会の後藤さんから強く抗議して頂き、最終的に御社のタキタさまへ業者の方が連絡を取って下さり、修繕費用を御社が負担して下さるということで最終的にはタキタさまにとても丁寧に対応して頂き解決いたしました。この顛末につきましては、録音記録を取っており、島田弁護士さまや小木曽さまへも強く抗議させて頂き、二度とこのようなことが生じないよう、窓口をはっきりさせるようにとお願いしております。それについては、解答を頂いておりませんでしたが。
三浦さまは、賃貸事業部の部長さまだと記されていました。一般的には、部長席の方が一案件を特別に担当するということはないと認識しております。実際のご担当は、賃貸事業部のどなたかになるのでしょうか。
一昨日に小木曽さまへお送りしたメールを、取り敢えず、そのまま下記に転載してお送りさせて頂きます。
初めて連絡させていただく三浦さまに申し上げるには恐縮なのですが、下記に記しました通り、このメールを確認していただけましたら、最低限、メールが届いたかどうかの確認だけでも直ぐにご連絡を下さるようお願いいたします。こちらは、御社の内部状況がどうなっているのかは全く分からず、「たらい回し」にされることが何より不安なので。
基本的には2営業日以内でのご返信をいただけるものと認識しております。万が一、1週間以上ご返信いただけない場合には、代表アドレスにもご連絡させていただくとともに、代理人弁護士・今村先生から裁判期日に陳述して頂いた通り、私を追い出すための嫌がらせとして反訴請求の損害賠償金額の拡張など対応を検討させていただきます。
\柿の木訴訟から知る社会の問題/
what?「深山祐助氏と過去に起こした社会問題」
平出さんのアパートを買い取ったこの大家さん・・・レオパレス21や株式会社MDIを創業した深山祐助氏、昭和のいわゆる「バブル期」から不動産業界で大きな社会問題を引き起こしてきた有名人でした。
レオパレス21時代は従来の不動産販売事業から請負建築事業へとビジネスモデルを転換し、コストダウンと工期短縮のための施工マニュアルを作りました。「入居者にとって家賃は安い方がいいに決まっている。家賃を下げるために、とにかく『建築費のコストダウン』を実施」しました。
その結果、2018年に多くの施工不良が見つかり、レオパレスに暮らす多くの住民が引っ越しを余儀なくされ、それらの物件のオーナーも巻き込んだ大きな社会問題となりました。
ほかにもサブリースをめぐり、オーナーに不利な契約変更を組織的に行なってきたことなどが明らかになりました。
その深山祐助氏はレオパレス21を退職した直後に「株式会社MDI」を創設、代表取締役会長を務めていました。今度は、個人投資家への銀行融資を不正に手助けする詐欺事件が発覚しました。2019年9月に、ソフトバンクグループなどが出資する合弁会社に救済措置のように吸収され、深山祐助会長は退任しました。
現在の株式会社ATCは、その僅か1ヶ月後の2019年10月に深山祐助氏自らが創業したものです。
今回の平出さんの「取り壊し前提で建物を購入、直後から乱暴な立退要求をする」ということも、法令遵守が二の次になってしまっても仕方がないという社風の地続きのように思われます。
関連サイト
・レオパレス21「施工不備問題に関する調査報告書(概要版)」
深山祐助氏の指示のもと、1万5千個を超えるレオパレス21において、施工不良が露見しました。そうした事件が起きた社内での背景、事件の大きさがわかる報告書
・東洋経済オンライン「レオパレス創業者が設立『MDI』不正融資の手口」(筆者・小野悠史氏 令和3年8月5日付けの記事)
レオパレスと退職した直後に創設した「株式会社MDI」で起きた不正融資事件。
レオパレス時代との共通点や闇に隠れた問題を浮き彫りにします。
What?「大林三佐子さんは人ごとじゃない」
2020年東京・渋谷区内のバス停で休んでいた当時ホームレス状態だった大林三佐子さんが、男性に殴られて命を落としました。
事件当時「彼女は私だ」、「彼女は社会に殺された」と、大勢の女性たちが被害者にみずからを重ね、SNSなどを通して声を上げました。平出さんも大林さんは将来の自分かもしれないといいます。
大林さんは、派遣会社に登録して、スーパーで試食販売の仕事をしていたといいます。コロナ前までは杉並区でアパート暮らしをされていたそうです。
非正規雇用として、将来の昇給も望めず、手取り収入の半分がお家賃を占めている平出さんには、引っ越しを繰り返す中で住まいを失っていくのではないかと、立ち退くことには不安しかありません。もちろん、立退料をもらって引っ越して行ける人もいます。その一方で、ギリギリの暮らしの中で住まいを失う不安を抱える人々も、増えているのではないかと思えてなりません。
関連サイト
・NHK 追跡 記者のノートから「ひとり、都会のバス停で~彼女の死が問いかけるもの」